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幻霧に包まれて|撮影地:野付半島(第4回年間グランプリ展(2021年)グランプリ作品)

心が撮りたいと感じるものにレンズを向ける


妖精が許してくれた

 野付半島でエゾシカを撮影した2021年の作品「幻霧に包まれて」に続き、豊頃町の霧氷をつけたハルニレを撮影した「White fairy」も翌22年のグランプリを受賞し、大変光栄に感じています。「幻霧に包まれて」は、シャッターを切った瞬間に大きな手応えを感じ、心の中で「グランプリも夢じゃないかも」と期待する部分がありました。
 一方、豊頃町の牧草地に立つハルニレを水墨画のように撮った「White fairy」は、インスタ映えを好む人が多い現在、関心を惹く対象として成立する作品なのか自信が持てず、賞のことは全く念頭にありませんでした。それだけに受賞を知ったときの強い驚きと共に、作品を理解して頂いたことに対して深く感謝せずにはいられませんでした。

White fairy|撮影地:ハルニレの木(第5回年間グランプリ展(2022年)グランプリ作品)

 「White fairy」は12月10日朝9時に撮影したものです。豊頃町は十数年通い続けている撮影場所なので、天気予報を聞けば霧氷の有無などをほぼ正確に推定することができます。前日の予報が霧氷になる条件が揃っていることを教えてくれたので、10日早朝に現地入りしました。予想通り、ハルニレは霧氷の白い花をほどよくつけながら、霜の降りた冬枯れの草地に立っていました。
 朝焼けが褪せると空は次第に薄い雲に覆われ、影の無い白い光が周囲に満ちてきました。私は霜が降りた冬枯れの草地に身を伏せて、70-200ミリF2.8レンズを装着したSONYα7R3を地面スレスレに構え、絞り値を開放にしてシャッターを切りました。
 霜草の前ボケ効果により、地表は靄が漂う幻想的な雰囲気に変わり、画面全体がモノトーンの世界になりました。その空間に浮かび上がったのが、マイナス10℃の中、褐色の太い幹から逞しい枝を四方八方に突き出す、躍動感あふれるハルニレの姿。酷寒に耐える命の力強さを、直感で捉えた対象物の本質を描く水墨画の手法に似た表現方法で、作品を仕上げることができたと思います。
 私はこの場所を訪れてハルニレを撮影した後は必ず、感謝の気持ちを込めて「ありがとうございました」と頭を下げます。そんな私の姿をハルニレの妖精(フェアリー)がどこかで見ていて、勝手にレンズを突きつけてシャッターを切る私の無礼を許し、この写真を撮らせてくれたのだと感じています。

「銀河鉄道999」のように

 グランプリ作品がいずれも幻想的な絵画のような作品なので、その方向に進むのかと思われがちですが、私は風景、動植物、物、人、社会の営みを問わず、自分の心が「撮りたい」と感じたものに対して、レンズを素直に向け続けたいと思っています。
 そのような写真の一例として、釧路駅と標茶駅の間を走る北海道唯一のSL臨時列車「冬の釧路湿原号」を撮影した作品「Dream Train」があります。ショッピング株式会社(本社・東京)が運営するカメラ専門店「マップカメラ」主催のフォトコンテストで賞をいただいた写真です。

Dream Train|撮影地:釧路市 旭町

 冬の釧路湿原号が鉄橋を渡る姿が間近で眺められる、釧路川河川敷の一角「舟着き広場」は撮影ポイントとして全国的に有名で、シーズン中はカメラを抱えたSLファンが詰めかけ、その中に多くの観光客も混じって手を振り、列車の乗客もそれに応える心温まる風景を毎回、見ることができます。
 その様子を眺めていた私の胸に「夢列車」という言葉が浮かびました。私の世代は列車といえばSFマンガ「銀河鉄道999」を思い出します。幾両もの客車を牽引する蒸気機関車が線路から舞い上がって宇宙空間を進む姿を、真横のアングルから描いた一コマは今も瞼に焼きついています。その姿に重なる形で冬の釧路湿原号を表現したいと思いました。
 蒸気機関車と客車を合わせて全長約120メートルになる冬の釧路湿原号が、14ミリ広角レンズの画角に欠けることなく収まる場所を探し、釧路川に架けられた鉄橋と釧路川の水面が重なるラインが画面の中央を水平に横切る位置にアングルを定め、列車が来るのを待ちました。
 やがて、雲が流れる青空とハス氷が浮かぶ川面の間を、煙を吐きながら客車を牽引する蒸気機関車が近づきイメージ通り、まるで水面を滑るように走り抜ける私の「銀河鉄道999」号を撮ることができました。受賞後、私の作品に対して各地から数多くの問い合わせをいただきました。多くの方が画面を水平に走るSLは初めて見たとの感想を私に伝え、望遠ではなく広角レンズで撮影したことについて驚いていました。

パラレルワールドの旭岳

 風景撮影は時に思いがけないご褒美をいただいたような、想定外の魅力に溢れた作品に仕上がることがあります。デジタルカメラマガジンの福島編集長からお褒めの言葉を頂いた、雪化粧した旭岳の「Snow make」はその好例です。

Snow make|撮影地:旭岳

 紅葉の中で初雪をまとう旭岳を太陽の光芒が照らす風景を撮ろうと思い9月後半、早朝のロープウエイで姿見駅まで行きました。15分ほど歩いて姿見の池を挟んで北海道最高峰が眺められる場所に着きましたが、雪が降り過ぎて肝心の紅葉が隠れていました。
 方針を変えて白銀の旭岳を撮ることにしましたが、風が強く吹いて池の水面が波立っていたので、しばらく待つことにしました。2時間ほど経過して水面が静かになり、これで撮れると思い改めて旭岳を眺めると、空を登る太陽が構図の3分割法で言うところのベストに近い位置に移動し、池の水面にも映り込んでいます。
 再び方針を変え、光芒撮影のために最初から準備してきた、絞り羽根が偶数枚の12ミリ広角レンズを装着し、青空が白飛びせず、池の中の石を黒く潰すことのないように、角型のハーフNDフィルターを取り付け、空と池の明暗バランスを整えながらシャッターを切りました。
 仕上がった写真は、私たちの世界によく似ているけれど、少し様相が異なるパラレルワールドのような、ちょっとミステリアスな風味を持つ旭岳になりました。変化する撮影条件に対応するうち、思いもしなかった構図の写真にたどり着き、改めて「だから写真はやめられない」と感じた撮影行になりました。

ライカと別海町

 私の本職は、介護を必要とする人の相談に乗り、適切なサービスが受けられるようにアドバイスするケアマネージャーをしながら施設運営を行なっています。その方々から許可を得て、本人が歩んできた人生の一端を物語る痕跡が刻まれている「手」を撮り続けています。
 その個性的な手の表情の撮影には、大砲のようなレンズを装着した一眼レフでは不安を与えて表情の本質を撮り逃す可能性もあり、ふさわしくないと考え、あえてM型ライカで撮っています。温もりを感じさせるカメラ本体のフォルムが警戒感を解き、私自身も楽しい気分で撮影できて、その気持ちが相手に伝わって、とても良い状態で撮影が進行しています。すでにかなりの枚数になっていて近い将来、個展を開きたいと考えています。手の写真のこともご記憶にと留めていただければ幸いです。
 昨年暮れ、勤務の関係から職場が変わり住居も別海町に移動しました。野付半島での撮影が増えると思いますが、別海町エリアのまだ知られていない魅力的な風景の発見にチャレンジすると共に、並行してライカによる手の写真も継続しながら、私らしい写真とは何かを問い続け、新境地を拓くような結果を出したいと思っています。

AMBASSADOR Profile

handle name:masashi.oyanagi


カメラを始めたのは15年くらい前。当時は山に夢中になっていました。山で迎える夕暮れ、星空、夜明けと感動の景色を色んな人たちにも見て欲しいと思い、カメラを始めました。
そこからは山以外にも北海道の素晴らしき景色に魅了され、夢中で景色を撮り始めていきました。

<賞歴>
日本でもっとも美しい村フォトコン2018 佳作
第37回「日本の自然」デジタル部門入選
第3回世界三大夕日の街釧路 最優秀賞
第3回北海道撮影ポイントランキング年間グランプリ展 準グランプリ
第4回北海道撮影ポイントランキング年間グランプリ展 グランプリ
第5回北海道撮影ポイントランキング年間グランプリ展 グランプリ

<使用カメラ>
SONY α7RⅣ
LEICA M10R